・群れてくる
ベンチに座ると一斉に鳩が僕の足下に集まって来た。
なぜ鳩達は僕を餌をあげるタイプの人間だと判断したのだろう。他にもベンチは三つあって、その全てに人が座っている。
なぜ、よりよって僕の所に集まって来たのか。早くも僕は公園で注目を浴びている。
鳩に餌をやるのは老人が多い。老人の回りに鳩が群がる光景をよく眼にする。「あの老人喰われるんじゃねぇか」と見ていて怖くなる時すらある。
老人が着ている服は灰色や茶色が多い。その色は鳩に近いから鳩達も親近感を持ちやすいのかもしれない。たまに首もとに紫色のスカーフを巻いている老婆がいるが、鳩もよく見ると老婆と同じように首もとに紫色のスカーフを巻いている。ますます鳩と老人はファッションセンスが似ているのだ。
他のベンチを見渡すと、他の人達は服装が若い。だから、体格も服装の雰囲気も比較的老人に近い僕が鳩達に選ばれてしまったのだろうか。
近付いて来た鳩は排気ガスで汚れた酷い色だった。が、僕が着ているジャケットは驚くほど汚ない鳩に似ていた。
僕と僕の回りに群がった鳩は、遠くから見ると巨大な一羽の鳩に見えるだろう。遠くから見ると僕は鳩に半分以上喰われているだろう。
・子供のすること
少し雨が降っていた日のことでした。影絵の手を作り壁を凝視している子供がいました。
でも陽がさしていないので壁には何もうつっていませんでした。何もうつっていませんでしたが、子供は指をひらひらさせてました。
恐らく、ちょうちょです。もしかしたら、大きめの蛾かもしれません。
子供が去ったあとに陽がさし、時間差でちょうちょがうつるなんてことはないのでしょうか。
・麦わら帽子
オープンカーの後部座席で婦人が麦わら帽子をかぶっていた。
随分勇気があるなと思った。
オープンカーで麦わら帽子をかぶっていたら、普通なら風で飛ばされる。
あそこまで頭に帽子がフィットするのはおかしい。
帽子で隠れている婦人の頭。耳の上が膨らんでいてそこにひっかかるようになっているのかもしれない。
格好良かった。あれで日傘させたら完璧な貴婦人だ。
傘はさすがに骨裏返ってバサッ、バサバサバサバサ、右手ウーン、ってなるやろうけど。