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1.21.2024

のどかな公園

この前、特に予定もなく時間があまりまくっていたので、なんとなく少し足を伸ばして遠出をして大きめの公園へ散歩に出掛けた。

その日は休日だったということもあり人が多く、手入れされた綺麗な芝生の上で子供達が走りまわったり転がったり跳ねたり、家族でお弁当をひろけだり、とてものどかな景色だった。

前日からほとんど眠っていなかった僕は、公園ののどかさや爽やかさの対極は恐らくこのような色だろうといえるほど悲惨な顔色をしていた。

こんなことなら遠出をしてまで散歩に出掛けずに、家で寝ていればよかったなぁと後悔もあったが、
家を出るときは寝不足にありがちなナチュラルハイ状態で、やけに元気だったので、これなら今日は寝なくてもいける!と思って出掛けてしまったのだ。

しかし公園の風景はそんな僕にとってものどかで心地が良かった。

僕も周囲の人達に習い、『気持ち良いなぁ』などと言いながら、芝生の上に座ってみたのだが、綺麗に刈られた芝の先に肌を刺されて意外なほど痛かった。

あまりに痛かったので驚き、思わず立ち上がってしまい、周囲を見渡してみたが、やはり芝生の上で子供達が走りまわったり転がったり跳ねたり、家族でお弁当をひろけだりしていた。

とてもチクチクして肌が痛かったがせっかくの爽やかな気分を壊すのも嫌だったので芝生が痛いという感想は気にしないことにしようかと思った。

だけど、ふと、周りを見てここにいる笑顔の人達、子供も含めて全員がこののどかな雰囲気を壊さないように、少しずつ自分に嘘をついて芝生が痛くないというふりをしていたとしたら恐ろしいなと思った。

そんなことも思いつつも結局芝生のチクチクに耐えられず、立ち上がって芝生から出て公園をブラブラすることにした。たとえ芝生に座っていなくても、公園のこの光景はとても僕を癒してくれるからだ。

その後しばらく歩いてから公園を出て、お腹も空いてきたので「うどん」を食べようかと街の方へと移動して商店街の道を歩いていると、視界の端の方で「おうどん」と書かれた看板が見えたような気がして、

立ち止まりその看板の方へ顔を向けると、「おうどん」ではなく、「あうん」と書いてあり、うどんとは何の関係もなかった。

「うどん」屋は偽物だったが、どうやら公園ののどかな風景は僕の心ものどかにさせたようで、公園のあののどかさだけは本物だったんだと安心できた瞬間でもあった。でもやっぱりあの芝生の上に座れそうにもない。

10.25.2023

緊張感

井の頭公園を一人で歩いていると、100mくらい前方からセーラー服の女性と思しき人が、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。

僕と妖怪以外は誰も歩いていないような、深い時間に暗い道をセーラー服の女性が一人で歩く風景は相当違和感があり、出来ることなら僕は一目散にその場を立ち去りたかったが、立ち去ることを決定して逃げることは、そのセーラー服の女性がこの世の者ではないと決定することでもあるので、それはそれで困る。

僕としては何もないことが一番なのだ。そんなことを考えている内にセーラー服の女性と僕の距離は徐々に縮まる。距離が近くなればなるほど女性が何故か大きく見える。

二人の距離が30mくらいまで縮まった時にはセーラー服の女性が僕よりも完全に大きいことは疑いようがなかった。

更に距離が縮まる。デカい。精神的に追い込まれているからデカく見えるということではなく、どうやらセーラー服の女性は単純に質量としてデカいようだ。

まるで格闘家のようだ。10m付近まで来て、確信した。

この人は女性ではない。カツラをかぶりセーラー服を着てはいるが間違なく男だ。

もしも彼と僕が本気で戦ったとしたら僕の命は3秒と持たないだろう。

自分の呼吸が荒くなるのが解った。もしものために僕はポケットの小銭を強く握った。これでパンチ力が増す。

などと思っている内にセーラー服のいかつい男は僕の至近距離まで迫っていた。

僕は無力にポケットの小銭をはなした。駄目だ勝てるわけがない。僕はフリーザーの前のクリリンだ。

しかし、セーラー服のいかつい男は僕に見向きもせず真直ぐを見てそのまま歩き去った。

奴は一体何だったのだろう?僕は大きく息を吐いて、胸を撫で下ろした。今日は早めに散歩を切り上げて早く家に帰ろう。そう思った時だった。

僕の真横を圧倒的な暴力の恐怖感が通り過ぎた。

奴だった。右手に缶コーヒーを持ち嘘臭いまでに背筋をただし前方の一点だけを見つめて音も立てずに去って行った。

奴は何だったのだろうか?どこであの缶コーヒーを飲むのだろうか?僕は奴が消えた先に背を向け足早に家を目指した。

しばらくすると遠くの方から、『ゴゴォ〜』と缶コーヒーを強力な力で吸うような、巨大で不安を煽るような音が聞こえた。

しかし、その音が奴のものなのか、水鳥園の鳥の鳴き声なのか、はたまた幻聴だったのかはいずれも定かではない。

10.24.2023

あせるやん

京都で歩いていたときのこと。

歩道に何か大きく黒い物体が倒れていた。近寄ってみると、その物体はうつぶせで倒れている中年男性のようだった。

咄嗟に助けなくてはと思い声を掛けようとしたが、ふと思いついたことがあって言葉を飲み込んだ。もしかするとこの男性、眠っているだけかもしれない。

もしも声を掛けて無理やり起こしてしまい、『眠れないから子守歌を唄え』と言われたら災難だ。僕は歌唱力が無いし、ちゃんと唄いきれる子守歌も覚えていないから。

だからといって、知らぬふりをして通り過ぎるには、あまりにもインパクトが強過ぎる風景だ。

なんせ歩道にうつぶせで倒れる男性なんてそうそうお目にかかれるもんじゃない。いや、大阪の新世界の中ならいそうな気がするけれど。実際に男性が路上で寝ていることがあった。しかも裸で。

駆けつけたお巡りさんにその男性は「暑いから裸になって寝ていた」と言った。ほんまかいなって話だけれど、新世界では男性がうつぶせで倒れていても不思議でじゃない。

だけどここは京都だ。新世界ではない。事故の可能性も充分に考えられる。迷っている場合ではない。勇気を出して声を掛けた。横を自転車が二台通過した。

黒い物体は反応を示さない。トントンと背中を叩いて見ると、ようやく髪とか服の中から顔が出て来た。思った通り、中年の男性だった。

『大丈夫ですか?』と声を掛けたら、『涼んだら帰ります。ありがとうございます』と男性が言った。

『そうですか、起こしてすみません』と僕が言うと、『いえ、こちらこそすみません』と男性は応えた。

しっかりした口調だし問題は無いだろう。自分の意志で男性は眠っていたのだ。正直に言うと、依然巨大な違和感は心にあるのだが、まぁいい。

男性に背を向け行こうとすると、男性に『どこから来たんですか?』と聞かれた。僕は振り返ると指で七条方面を差して、『あっちです』と答えた。

すると男性は、『いやいや!そういう事じゃなくて!大阪とかぁ!関東とかぁ!観光?』と急に口調とテンションがフランクになったので恐ろしくなってしまった。

『あっ、大阪です』と僕は答え一刻も早くこの場を去ろうと再び歩き出した。男性が僕に、『お気をつけて』と言った。もう一度振り返ると、やはり男性は寝たままの体勢だった。『あんたや』と思った。

あの時、もしも男性が僕の眼を見て、『交代』と言ったら、今度は僕が男性の代わりにあの場でうつぶせになり、次の人が来るまで待たなければならなかったのでは?などと意味のない無駄なことを考えていたら、自分の中で不安が膨れ上がって行くのがわかった。

祇園四条の灯が見えた途端早歩きになった。めっちゃびびってるやん。