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1.20.2024

台風の午前

冬なのに夏の話なのだけれど、台風情報が結構出てきた時。

台風が近付いているということを聞いて、台風が上陸したある日のことをふいに思い出していた。

その日は駅前にいた。二十四時を過ぎた辺りから雨が降り出し、ようやく上がった時には午前三時をまわっていた。

雨が降り出した直後の駅前は右往左往と豪雨から逃れる人々の慌てる姿が目に入り居心地が悪く緊張した。

商店街のアーケードの下で雨宿りをする人。心細げにビニール傘を頭上にさし駆け出してみたが横殴りの雨にいてこまされている人。知らない人と一緒に深夜まで営業している店に駆け込む人。

駅前で雨宿りしていても台風なので雨がやむ気配を感じれず、商店街の入り口付近の店に入り本を読みながら雨が過ぎるのを待った。

午前三時に雨が上がったので店を出て散歩に出かけた。散歩をする時間がしばらくなく、ようやくと思えば雨で鬱屈とした精神状態が続いていたので、自由に歩ける喜びと解放感から僕は有頂天になっていた。

幸いなことに午前三時という曖昧な時刻と雨が上がった直後という曖昧な天気のため往来に人影はなく誰の目も気にすることなく僕は浮かれながら歩くことができた。小学校の遠足ならば確実に引率の先生に叱られるような歩き方だ。

両手とも指でわっかを作っていたし、脇も少し開きしめていなかったし、ニ歩と同じ歩幅では歩かなかったし、坂道は後ろ向きでのぼったりした。補足すると、これは幼い頃に僕が編み出した坂道を疲れずのぼる必殺技だ。

そんな浮かれた歩行を続けていると、いつの間にか前方から坊主頭の若い男性が歩いて来た。僕は一瞬で弛緩していた筋肉に緊張感を取り戻し、私は普通です、というふりをした。

すると、すれ違った瞬間に男性が突然僕に声を掛け『おはようございます』と丁寧に挨拶をされた。以前知人と飲みに行った時に知人が連れて来た後輩だった。やってもうたと思ったが今さら後悔しても後の祭りだ。

変な歩き方は見られただろうか?何とか上手く取り繕わなければと焦ったが、妙案は思い浮かばなかった。

『わざわざ挨拶してくれてありがとうございます。嬉しかったです。また知人と一緒に飲みにいきましょう。失礼します。』

そのように普段なら絶対に言わないようなセリフを口にして、その場を足速に去った。一人になると激しく後悔した。挨拶だけでいいものを焦ってしまい変に長く余計なことを喋り過ぎた。

先程まで踊っていた心を落ち着けて冷静に考えると、はなっから雨は上がってなどおらず終始小雨がぱらぱらと降っていた。上着が湿っているのにも気付かされた。

恥じらいが更なる恥じらいを生むことも多々ある。恥じらいとは非常に有益な感情だと手放しには言い難いと思った。そんなことより、台風はいつ日本を離れるのだろうか。

そんな日の事を思い出した冬の日

12.28.2023

缶コーヒー / 当りか外れか / 人ではない声

  ・缶コーヒー

僕は夏で寝る時にはエアコンは使わない。扇風機を使う。でも扇風機の風にあたりっぱなしになるとすぐに体調を崩してしまうので、基本タイマーで1時間程度で切れるように設定している。

だから寝起きはとても暑い。今日はなんか冷たい缶コーヒーが飲みたくなる。目が覚めるような苦めでありつつも、ミルクも砂糖も入ったものを。

家の中のことを考えるとある程度の暑さを覚悟していたのだが、そういう時に限って意外にも外は思ったほど暑くなかったりする。

そんな時は一気に寝起きの不快感が消滅するような心地良さを感じさせる。自動販売機に小銭を入れコーヒーを買って家に帰るのだ。

そして気付いた。ブラック買ってしまっていることを。

寝起きで目を覚まさせるためにちょっと苦めのコーヒーを買うつもりだったのに、ブラック買ってしまっていた。まだ頭の中は起ききれてなかった。

無理やりに色々と良い感じにしたがる癖がある。さすがにブラックのコーヒーは飲む気がしないから、また買いに行くかどうか悩まされてしまう。

もう一度、缶コーヒーを買いに行こうか?また買いに行って別のメーカーのブラックコーヒーなんか買ってしまったら、家に帰ってふて寝してしまうかも。

そんな夏を待ち焦がれている冬の今日。

  ・当りか外れか

ラーメン屋で、つまようじを一本引っ張りだしたら真ん中辺りの一部分が焦げ痕のように黒く変色していた。

どうやら無数にあるつまようじの中で、僕が取ったものだけが痛んでいたようだ。

そのつまようじは、少し圧力をかけるとすぐに真っ二つに折れた。

ハズレなしのクジでハズレを引いてしまったような気分だった。

または当たりなしのクジで一人だけ当たってしまい周囲の注目を浴びて後悔しているような状態だ。

こんな夜は家に帰り部屋を掃除する。すると新鮮な気持ちで明日に向えるのだ。

  ・人ではない声

街を歩いていると、人間ではないものの声がよく聞こえて来る。

このように書いてしまうと、今から自分の出生の秘密と幼き頃に天狗より授かった不思議な能力について語りたくなるのだが、そんな能力は残念ながら持っていない。

人間ではないものの声とは音声ガイドのことである。街を歩いていると、ATMや自動販売機など至る所から声が聞こえて来る。

先日、駅でトイレを探していると、『滝の御トイレです』という声が聞こえて来た。

どんなトイレだろう。滝のように水が流れるのか?自然の滝に放尿するのだろうか?

いずれにせよ面倒臭そうだ。

いっそのこと我慢しようかとも思ったが、一応トイレの様子を見てみようと思い近付いて行くと、『滝の御トイレ』では無く、『多機能トイレ』だった。

わだかまりが消え若干の気持ち良さを感じ、このことを誰かに伝えたいと強い衝動を感じた。