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台風の午前

冬なのに夏の話なのだけれど、台風情報が結構出てきた時。

台風が近付いているということを聞いて、台風が上陸したある日のことをふいに思い出していた。

その日は駅前にいた。二十四時を過ぎた辺りから雨が降り出し、ようやく上がった時には午前三時をまわっていた。

雨が降り出した直後の駅前は右往左往と豪雨から逃れる人々の慌てる姿が目に入り居心地が悪く緊張した。

商店街のアーケードの下で雨宿りをする人。心細げにビニール傘を頭上にさし駆け出してみたが横殴りの雨にいてこまされている人。知らない人と一緒に深夜まで営業している店に駆け込む人。

駅前で雨宿りしていても台風なので雨がやむ気配を感じれず、商店街の入り口付近の店に入り本を読みながら雨が過ぎるのを待った。

午前三時に雨が上がったので店を出て散歩に出かけた。散歩をする時間がしばらくなく、ようやくと思えば雨で鬱屈とした精神状態が続いていたので、自由に歩ける喜びと解放感から僕は有頂天になっていた。

幸いなことに午前三時という曖昧な時刻と雨が上がった直後という曖昧な天気のため往来に人影はなく誰の目も気にすることなく僕は浮かれながら歩くことができた。小学校の遠足ならば確実に引率の先生に叱られるような歩き方だ。

両手とも指でわっかを作っていたし、脇も少し開きしめていなかったし、ニ歩と同じ歩幅では歩かなかったし、坂道は後ろ向きでのぼったりした。補足すると、これは幼い頃に僕が編み出した坂道を疲れずのぼる必殺技だ。

そんな浮かれた歩行を続けていると、いつの間にか前方から坊主頭の若い男性が歩いて来た。僕は一瞬で弛緩していた筋肉に緊張感を取り戻し、私は普通です、というふりをした。

すると、すれ違った瞬間に男性が突然僕に声を掛け『おはようございます』と丁寧に挨拶をされた。以前知人と飲みに行った時に知人が連れて来た後輩だった。やってもうたと思ったが今さら後悔しても後の祭りだ。

変な歩き方は見られただろうか?何とか上手く取り繕わなければと焦ったが、妙案は思い浮かばなかった。

『わざわざ挨拶してくれてありがとうございます。嬉しかったです。また知人と一緒に飲みにいきましょう。失礼します。』

そのように普段なら絶対に言わないようなセリフを口にして、その場を足速に去った。一人になると激しく後悔した。挨拶だけでいいものを焦ってしまい変に長く余計なことを喋り過ぎた。

先程まで踊っていた心を落ち着けて冷静に考えると、はなっから雨は上がってなどおらず終始小雨がぱらぱらと降っていた。上着が湿っているのにも気付かされた。

恥じらいが更なる恥じらいを生むことも多々ある。恥じらいとは非常に有益な感情だと手放しには言い難いと思った。そんなことより、台風はいつ日本を離れるのだろうか。

そんな日の事を思い出した冬の日

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